日本救急システム株式会社(以下:JEMS)は、常備消防組織を設置していない常備消防非設置自治体より119番通報に対する救急搬送業務を受託する「救急搬送業務民間受託事業」を主たる事業として実施しています。2022年1月末現在、宮崎県美郷町(救急隊3隊:救急救命士16名)、徳島県勝浦町(救急隊1隊;救急救命士7名)、沖縄県竹富町(救急隊1隊:10名)の3自治体で救急搬送業務を受託しています。メディカルコントロール(以下:MC)体制は自治体ごとに運用が異なり、宮崎県美郷町は自治体独自MC体制を確立、徳島県勝浦町は徳島県MC協議会(県下単一MC)に加入、沖縄県竹富町は沖縄県MC協議会-八重山地域MC協議会へ加入し、包括的指示による救急救命処置、直接指示による特定行為、拡大2行為等の救急救命処置を実施しています(都道府県MCにより細部は異なり一律ではない)。なお、当社は消防法に基づく救急業務には該当しないため、消防庁救急企画室通知による指導救命士は在籍していません。

社内教育システム
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JEMSにおける教育システムの構築


JEMSにおける教育体制では、大きく2つの課題が存在します。①組織単位の人員が少ない ②受託している管轄地区が支社間において遠隔かつ中山間部・離島である、という2点です。①の問題点として、当社全体では30名を超す救急救命士が所属していますが、宮崎支社・徳島支社・沖縄支社を設置しそれぞれ救急救命士を配置しており、各支社は10名前後の小さなグループで活動しています。指導的立場の者が各支社へそれぞれ配置しますが、これにより指導者の分散が発生し、得意不得意等を含めた教育可能領域の極小化が避けられません。②の受託地区が遠隔かつ中山間部・離島であるという問題点として、各支社間は距離にしてそれぞれ500km~1,000km離れており、一堂に会して訓練や勉強会等を行うことは困難ということです。また遠隔地のため外部研修や教育コース等に参加するには前後泊が必要となり期間が長期化すること、交通手段の選択肢が乏しく船舶や航空機を使用せざるを得ず、結果として旅費が高額となる等の地理的な問題もあわせて挙げられます。
「横の連携を強化し全社チームとして活動する」
「勤務体制や研修費用についてサポート制度を構築する」

「横の連携を強化し全社チームとして活動する」
横の連携を強化する為に「教育委員会の設立」「指導スキルを持つ救急救命士を全社的に運用」「ICTツールを積極的に導入する」という3つの方針を立てました。
「教育委員会の設立」では、支社単位ではなく全社として横断的に教育委員会を設置し、さらに委員会の中で細目を4チームに分け各支社より数名ずつ担当者を当てました。細目は救急チーム・救助チーム・緊急走行チーム・転院搬送チームとし、それぞれのチームで全社横断的に管理することにより、課題の洗い出し・目標の設定・教育計画の立案・実施後の反省を行うなどのPDCAサイクルを少人数制で回しています。このような主として配属されている部門とは別の目的を持った部門を掛け持ちする体制をマトリクス型組織体制と呼びますが、当社では全社員が目的ごとに設立された部門に複数加入するこの体制を積極的に執ることで、支社ごとそれぞれ似たような課題をそれぞれで解決するといった重複部分を減らし効率化を図っています。
「指導スキルを持つ救急救命士を全社的に運用」とは、社内で指導者をシェアするという取り組みです。教育委員会が立案した教育計画を履行する中で教育を行う分野の指導スキルを持つ救急救命士を都度ピックアップし、配属支社だけではなく他支社も含めて全社的な指導を行います。この際、指導者については配属や救急救命士年数等は問わず、その分野で指導スキルを体得している者が担当をしています。例えば、産科分野では産科分娩コースのインストラクター保持者が指導担当を、多数傷者対応では多数傷者対応コースインストラクター保持者が指導担当を、といった分野ごとの指名で、特定の個人が全て指導するという体制は現状実施していません。座学は基本的にオンラインで実施し、実技指導についても可能な限りオンラインもしくは事前に実技部分の指導方法などを教授した現地社員が実技のみ指導実施するなど、指導者が現地に赴かなくても指導可能なシステムを構築しています。さらにオンライン講習の質を高めるため、各事業所単位でiPad・高性能Webカメラ・高性能Webマイク・アクションカメラ・全天球型カメラなど様々な端末や機器を導入し、より臨場感のあるオンライン講習等が実施出来るよう努めています。もちろん指導者が現地に赴くことが最適である、という場合には指導者が各支社へ出張して指導を行うこともあります。
「ICTツールの積極的に導入する」では、中目標として「情報を一元的に管理する(一箇所に集める)」「出来るだけ簡便である」「セキュリティが確保されている」の3点を設定しました。現在当社では社内SNSシステム(以下:社内SNS)・Web会議システム・社内オンライン決裁システム・社内教育用動画オンデマンド配信システムについて導入しています。社内における情報共有はこの社内SNSを用いており、全ての情報を社内SNSに集約することにより遠隔地域や新型コロナウイルス感染拡大に伴う在宅勤務においても全社員が一元的に業務を実施することが可能となりました。また、Web会議システム・社内オンライン決裁システムを社内SNSと連携し社内SNSトップ画面からワンクリックで各種システムへ遷移できる体制としました。これにより操作が簡便となり、社内SNSのチャット画面からすぐにWeb会議システムを立ち上げオンライン会議が出来るなどシームレスな情報共有やディスカッションなどが実施出来ています。また、これらを利活用するために社員全員に情報リテラシー教育を行った上でノートPCを一人一台貸与しています。セキュリティ面については情報セキュリティの国際標準規格であるISO/IEC27001(ISMS)を取得している事業者サービスのみを使用しています。それに加え、貸与PCに監視ソフト等を導入し、社内SNSや貸与PCは全て監査可能であることを貸与者に申し伝え、個人からの意図しない(または意図的な)情報漏洩などに対して対応している。このようにICTツールを積極的に導入することにより、配属されている支社間を超えたコミュニケーションが可能となり、遠隔地でありながら横断的な業務遂行が実現できています。

「勤務体制や研修費用についてサポート制度を構築する」
支社間が遠隔である、また中山間・離島地区であるという地理的な条件による不利益を解消するために、サポート制度を含め二つの制度を確立しました。1つ目はシフト勤務制度における外部研修の優遇、二つ目は研修費制度です。
当社の勤務体系は日夜勤(24時間)、日勤(8時間)、夜勤(16時間)の3パターンを組み合わせて勤務者を決定するシフト勤務制を採用しています。休み希望を2ヶ月前までに提出しそれを基にシフトを作成していますが、先に述べた様に当社は中山間・離島地区にて業務を受託しており、外部研修や各種教育コースに参加する場合はどうしても移動日の設定や前後泊が必要となり参加日程が長期化します。そこで社内統一事項として、「外部研修・教育コース等については、実開催日の前後1日ずつを移動日とし、また期間中は有給等を消化せずシフトを作成する」という方針を策定しました。シフト作成者は、外部研修期間は該当者を勤務に入れず帰還後に勤務に復帰させるなど、変形労働時間制度のなかで認められる範囲内で所定労働時間に達するようシフトを作成します。これにより研修参加者は有給などを使用する事無く、また所定労働時間を割ることなく外部研修に参加可能となり、労務面におけるハードルを下げることが出来ました。
2つ目の研修費制度は、給与とは別途で会社経費を使用出来る制度です。この制度は自己研鑽奨励を主な目的としており、救急医療に関する内容であれば、図書購入費、外部研修や教育コース等の参加費・旅費などに使用出来るものです。2021年度までは事前承認無し・1人あたりの上限額有りとしていましたが、2022年度より事前承認制を導入する代わりに上限額の設定を撤廃しました。当社は若年層が多く、給与の余裕を使って自己研鑽に励むと言う点において心理的なハードルがありましたが、給与とは別途自己研鑽に使用出来る経費を用意することでこれを下げています。また、外部研修等に積極的に参加する社内風土を醸成することで、新入社員も先輩について行きながら外部研修等に慣れるなどといった波及効果も認められています。